三宅登之 ― 文法を研究してますけど何か? ―

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2009年 10月 28日

“一点”の“一”の声調(再録)

教育法の授業や大学院の授業で、時刻の1時“一点”の“一”の声調のことが話題になりました。
昔、旧ブログに書いたのですが、以下に再録します。

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以前あるテキストを作った時、時刻の1時“一点”の“一”を、編集委員の中国人は第1声だと言ったのでピンインも第1声で印刷したら、後日音声CDの録音の際に吹き込みを担当した中国人は第4声だと言って、結局第4声で吹き込んでもらったことがある。気になってその後数人の中国人に聞いたのだが、第1声で言う人と第4声で言う人がほぼ半々に分かれた。このことについてテキスト『公式でわかる初級中国語』
http://sweet.asahipress.com/text/c-index.html
の「教授用資料」に書いたことがある。以下に引用する。
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1時“一点”の発音を中国人に聞くと、“一”の部分を第4声に読む人と、第1声に読む人がいます。北京出身者などで、この発音は第4声でしかありえないと強く主張する人がいる一方で、自分は第1声で読むという人も決して少なくありません。ただ規範から言えば、時刻の“一点”の“一”は第4声で読むべきで、だからこそ2時が“*二点”ではなく“両点”となることと通じてきます。従って教室では規範的な第4声のほうで教えるべきだと考えます。
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とは当時書いたものの、「規範からいってあるべき姿」と「現実の姿」は必ずしも一致しないわけで、市販の教科書や参考書等にも両方の記述が見られる。
(注:ただしどのテキストも時刻の表現は取り上げているわりには“一点”だと声調がよくわからないというのがあって避けたのかどうか、用例が“一点”を用いたものはほとんどない。)
第1声派は例えば
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口語の時刻の言い方は時刻を告げる鐘のなる音の回数を数える言い方になるので“二”ではなくて、“両”を用いる。ただし、“一点鐘”の数詞“一”はあたかも時間の順序を表すかのごとく第1声に発音されることが多い。(『着実にまなぶ中国語20講―入門速成コース―』讃井唯允著、朝日出版社、2004年)
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などがある。(注:ただし上では「発音される」ではなく「発音されることが多い」と記されている点に注意。)
第4声派も『会話から読解へ―中国語入門―』(許徳楠著、東方書店、1986年)のようなネイティブの著書の本文のピンインがはっきりと第4声になっているものの他に、解説としては、
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時点は本来序数表現ですから、“一”はyi1と第1声で発音し、2も“二”を使いますが、「1時、2時」を表すときのみ、“一点”yi4dian3“両点”となります。(『Why?にこたえるはじめての中国語の文法書』相原茂等著、同学社、1996年)
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などが「1時」の時は第4声になると明記している。
今日の大学院の授業でネイティブに聞いたら第1声派が少なくなかった。出身地と年齢が様々な多くの中国人がこの“一”をどう発音するかについて社会言語学的調査をすればおもしろい結果が出るかもしれないと、帰宅の途中自転車をこぎながら激しく妄想した。それともそのような調査の先行研究があるのだろうか。
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(再録以上)
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by sanzhai | 2009-10-28 09:01 | 中国語の疑問や気づき | Comments(6)
Commented by 630叔叔 at 2009-11-01 17:45 x
13くんは1声で言っているそうです。
Commented by sanzhai at 2009-11-05 01:07
もしかしたら、第1声派が少しずつ増えてきている傾向にあるのかもしれませんね。何となくの印象だけで、根拠はありませんが。
Commented by 梁建民 at 2009-11-10 13:25 x
例:
 yi1-dian3 1点 
  ①下午1点在校門口集合。
 yi4-dian3 一点
  ②我要強調一点。
 
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説明:
 ①時刻の1時の場合
  「1点」と書いて、「yi1-dian3」と読む
 ②1つの事の意味の場合
  一般的には
   「一点」と書いて、「yi4-dian3」と読む
  
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日本語との比較
 ①時刻の1時を表示したい場合
    いちじ(音声表現)⇔1時(文字表現)
 ②別意味の言葉もある
    いちじ(音声表現)⇔一時(文字表現)
  注:時刻の場合、日本語も中国語も数字を使って表記して、別意味の同音語の場合も、同じく漢字を使う。
Commented by 梁建民 at 2009-11-10 13:26 x
(続き)
結論:
 (1)「公式でわかる初級中国語」の話
   編集委員の中国人の主張が正しいと思います。
   音声吹きこみ担当者、②の使い方と勘違う可能性が高い。
 (2)第1声派と第4声派の話
   第1声派の讃井唯允氏の主張が正しい。
   第4声派の許徳楠氏の主張も、相原茂先生の主張も、問題があると思います。
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余談:ネイティブの主張は必ずしも正しいとは限らない
 言語問題に関しては、ネイティブに生言語の実際の使用状況を調べるのが、確かに一番いい、一番早い方法です。ただし、ネイティブの問題自体に関する理解度や真剣度も、結論の信憑性に大きく影響を与える可能性があります。
 したがって、いい方法と言えるのは、先生も言及した社会言語学的調査の1つともう1つ。「外国人研究者/学習者」「研究者であるネイティブ」「研究者でないネイティブ」3方面極力協力して、お互いの理解を確認しあいながら、いい結論に導いていきます。
Commented by 梁建民 at 2009-11-10 14:21 x
三宅先生:
  「一」の発音に関して、資料を見つかりました。
  よろしければ、名前についてリンクをクリックしてご参考ください。
Commented by sanzhai at 2009-11-11 01:30
多くの貴重なコメントありがとうございます。
第1声派の方のご意見として参考にさせていただきます。

“一”の発音についてご指摘くださった資料も拝見しました。ありがとうございました。“一”の声調変化については、ご提示くださったこの資料はかなり端折った説明で、実際にはもっと他のケースもあって複雑であるのはご存知のとおりですが、1年生などが中国語の発音を勉強する時に必ずこのように習いますので、中国語を勉強している日本人は皆、この規則は知っているわけです。今回は、この規則では説明できない現象があったので、ブログにエントリーさせていただきました。(この資料の規則と“一点”の第1声派の説は矛盾するわけですから。)

今後ともよろしくお願いいたします。


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